白銀のシナスタシア
企業統治社会の暗部を背景に、人造人間チサトが失われた過去と新しい関係を通じて人としての生を選び直す近未来SF。
- ジャンル
- 近未来SF
- 公開状況
- STORY作成中
- 時系列
- 2088年
- 別名・旧称
- チサト編
INTRODUCTION
2088年、八洲帝国連邦。
国家は今も存在している。けれど、人々の暮らしを支えているのは、医療、情報、エネルギー、工業、都市インフラを担う巨大企業たちだった。
新しく整備された企業都市と、時代に取り残された古い街並み。高度なAIや義体技術が日常へ溶け込むそのすぐ隣には、企業の管理が届かない場所と、表には出ることのない事件が存在している。
鐘守千草は、そんな世界でS.E.R.A.F.の隊員となった。
幼い頃から憧れていたのは、互いに背中を預けられる「相棒」。
そして初めての職場で、千草はひとりの少女と出会う。
青みがかった白銀の髪。 静かな青い瞳。 人としてではなく、戦うための存在として生み出された少女――チサト。
これは、千草の目を通して始まる、2人の出会いの物語。
任務と日常。 企業都市の光と、その下に隠されたもの。
異なる場所から生きてきた2人は、同じ時間を過ごしながら、少しずつ互いの世界を知っていく。
そしてその出会いは、やがて2人だけでは終わらない物語へとつながっていく。
CHARACTER
| 人物 | 説明 |
|---|---|
| 千草 | 五大企業に属さない町工場の一人娘。古い刑事ドラマに登場する「相棒」に憧れてS.E.R.A.F.へ入り、初任務でチサトとバディを組む。 |
| チサト | A.V.E.の違法研究所で、製造番号1310番として作られた人造人間。極端な超感覚と銀糸を操る、S.E.R.A.F.の特記戦力。 |
| アテナ | 白峰生命工学に所属する研究者。再生治療と美容研究の権威で、自らの研究と肉体に絶対の自信を持つ完璧主義者。 |
| チトセ | A.V.E.の研究施設に関わる、黒髪と赤い瞳の少女。人を食ったような明るい態度を見せ、影と空間を操る危険な能力を持つ。 |
WORDS
| 用語 | 説明 |
|---|---|
| 八洲帝国連邦 | 2088年の舞台となる国家。皇帝、議会、官僚機構を残しながら、都市運営の多くを五大企業へ委ねている。 |
| 五大企業 | 医療、情報、エネルギー、工業、都市インフラなどを分担し、八洲帝国連邦の社会運営を実質的に担う巨大企業群。 |
| 白峰生命工学 | 医療、再生、生体工学、食品、衛生、農業を一体で扱い、戦後の生命基盤を支えた五大企業の一社。治安維持組織S.E.R.A.F.を擁する。 |
| S.E.R.A.F. | 白峰生命工学が擁する治安維持組織。違法研究、危険実験、異常個体に関わる事件で、制圧、拘束、保護を行う。 |
| A.V.E. | 人類を高次の存在へ強制的に昇華させることを目的とし、人造人間や感覚制御に関する違法研究を行う秘密組織。 |
| 骸憑き | 脳、神経、義肢、薬物などの制御が破綻し、本人の人格とは別の何かが身体を動かしているように見える状態。治療可能な症例も存在する。 |
| 感覚同調 | 銀糸を媒介に対象と感覚を共有する能力。戦闘では感覚過負荷による無力化にも使われる。 |
| 銀糸 | チサトが自己増殖させ、時空属性の収納領域へ蓄えている銀糸。必要な量だけ展開し、刃、拘束、防御、感覚同調の媒介として使う。 |
ABSTRACTS
戦役から企業統治へ
2088年から約20年前に発生した八洲大陸戦役では、国内クーデター、軍・公安系統の離反、国外勢力による侵攻、古代遺産の軍事利用が同時に進行した。連邦政府は戦役を収束させたものの、国庫、軍、社会保障、医療、治安、交通、エネルギー基盤に甚大な損害を受ける。
復興のために始まった民間企業への業務委託は、戦後も縮小されることなく恒常化した。2088年現在も連邦政府と各州は主権と制度を維持しているが、医療、交通、通信、エネルギー、都市インフラ、治安維持など、社会運営の多くを五大企業が担っている。市民は八洲帝国連邦の国民であると同時に、企業サービスの契約者でもある。どの企業圏に所属し、どの契約階層に属するかが、医療、教育、治安保護、情報アクセスなどの生活保障へ直結している。
都市と生活圏
大陸全体が、均質な未来都市へ作り替えられたわけではない。多くの地域では、国家時代に建設された道路、鉄道、住宅、工業地帯を補修しながら使い続けている。企業が選択的に投資した中枢部だけが、巨大な企業建築と多層交通網を備えた積層企業都市へ発展した。その足元には、再開発から取り残された旧市街、閉鎖された地下鉄、護岸や高架道路の内部に作られた施設など、古い時代の都市構造が今も残されている。
企業による管理、警備、医療、災害対応、インフラ保障の対象から外れた区域は、総称して《アウターシティ》と呼ばれる。地理的な都市外縁だけでなく、企業都市の地下、管轄境界、閉鎖区域などにも点在している。アウターシティには、特定の企業へ所属しないフリーランス、戦役後の傷を抱えるアンクサー、異規格の義肢や機装を継ぎ接ぎしたステッチャーらが暮らしている。ジャンク・ハイヴやスクラッパーズによる非正規の部品流通が生活を支える一方、ラスターズのような武装勢力も活動している。
戦後傷病者と《骸憑き》
八洲大陸戦役で機械化義肢や軍用機装を装着した帰還兵は、アンクサーと呼ばれる。戦後に社会保障制度が崩壊すると、正規の保守や投薬を受けられない者たちは、中古部品、コピー義肢、非正規の神経接続端子へ頼るようになった。異なる規格やメーカーの部品を身体へ継ぎ接ぎした者たちは、ステッチャーと呼ばれている。
脳、神経、義肢、機装、薬物などの制御が破綻し、本人の人格とは別の何かが身体を動かしているように見える状態が《骸憑き》である。《骸憑き》は一律に討伐すべき怪物ではなく、白峰生命工学の医療技術によって治療できる症例も存在する。そのため、S.E.R.A.F.は対象の殺傷ではなく、生体確保、制圧、拘束、保護を優先している。
物語の始まり
鐘守千草は、五大企業の系列に属さない老舗町工場の一人娘である。幼い頃に《骸憑き》から救助された経験と、古い刑事ドラマに登場する「相棒」への憧れから、白峰生命工学の治安維持組織S.E.R.A.F.を志す。養成学校では優れた成績を収め、首席で卒業したが、五大企業系の家庭に生まれた同期やその周囲からは疎まれ、最後まで親しい友人や相棒を得られなかった。
S.E.R.A.F.へ配属された千草は、初任務で製造番号1310番とバディを組む。1310番は、A.V.E.の違法研究所で製造され、白峰生命工学によって身体制御装置と戦闘技術を与えられた人造人間だった。自分を実験体や戦力としてしか認識していなかった彼女へ、千草は「千智――チサト」という名前を与える。
千草はチサトへ、任務とは関係のない日常を教えていく。共に映画やSF作品を見て、好きな場面について語り、食事をし、何気ない時間を過ごす。それまで命令と実験の中で生きてきたチサトは、千草との生活を通して、誰かと時間を共有することや、自分自身の「好き」を少しずつ知っていく。
能力と戦い方
チサトは極端な超感覚、身体制御装置、銀糸、時空属性の収納空間、高周波ブレードを使う。感覚同調は魂・人格核と同調して対象を無力化できるが、相手の記憶と感情が流入する反作用を持つ。
S.E.R.A.F.は軍隊ではなく治安維持組織であり、チサトも殺害ではなく制圧、拘束、保護を優先する。戦闘技術の即時再現は好戦性ではなく、前編の死闘を生き残るため得た適応である。
A.V.E.事件と記憶喪失
A.V.E.はチサトを回収・再調整し、完成制御装置個体との試験へ利用する。千草は単身で施設へ入りチサトを救出するが、アテナの研究所へ送り届けた後に死亡する。チサトは再生治療で身体を回復する一方、頭部損傷により千草との記憶を失う。
アテナとチサトはA.V.E.が白峰役員とS.E.R.A.F.へ浸透していた証拠を掴み、研究施設を制圧し組織を浄化する。チサトはアテナの庇護下でS.E.R.A.F.平隊員へ戻る。
