静星のアストラレイン
魔法が文明を支える古代アルカディアで、異界の機械文明を知る少女ルーメと、ステラ、ベルたちの出会いから始まる魔導文明SF。
- ジャンル
- 魔法文明SF
- 公開状況
- 設定構築中
- 時系列
- 古代魔法文明期
- 別名・旧称
- 古代編
INTRODUCTION
遥かな古代。
魔法は奇跡ではなく、文明を支える技術だった。都市を動かし、人を癒やし、空を渡り、国を守る。
十三の魔塔を中心に栄えたアルカディア魔導評議国は、マナと魔法によって高度な繁栄を築いていた。その世界に、ひとりの少女が生まれる。
「ルーメ」。彼女の中に刻まれていたのは、この世界には存在しない機械文明と、まだ誰も見たことのない数多くの物語《マキナ・レリクス》だった。
異界の知識を持つ少女。誰かを守ろうとする少女。想像したものを形にする少女。
三人が始めた小さな研究は、やがて魔塔へ、国家へ、そして繁栄の中で静かに揺らぎ始めた文明そのものへとつながっていく。
まだ誰も知らない。
少女たちが見上げていた同じ星空の下で、ひとつの時代が大きく動き始めていることを。
CHARACTER
| 人物 | 説明 |
|---|---|
| ルーメ | マキナ・レリクスに脳を焼かれた少女。ロボットを必要としない魔法文明に絶望し自ら作り出すことを決意する。 |
| ステラ | 孤児院出身の平民の少女。困っている人を見れば立ち止まれない性格で、人々を守るため《ヴァルグラン》へ搭乗する。 |
| ベル | 地方貴族家の五女で、ステラとは幼馴染。気位が高く、感情が重く、創造魔法の才能を持つ危険な天才。 |
| アーカイアス | アルカディアを統べる十三の魔塔の一つ、第一魔塔の主。ルーメ達の才能を見抜き、自らの研究室に招き入れる。 |
| ミネルヴァ | 気怠い雰囲気を持つ赤毛の女性。次々と新技術を発表する若い女性発明家で、ルーメの上京と同時期に名前が知られるようになる。 |
| ノクティルカ | 黒い喪服とヴェールの少女。周辺国の抵抗勢力に物資やマナに依存しない燃料技術を与え、「裏切りの魔女」として知られる。 |
WORDS
| 用語 | 説明 |
|---|---|
| 啓示 | 本来知り得ない異界の知識を受け取る現象。受け取った者は啓示持ちと呼ばれる。 |
| マキナ・レリクス | ルーメへ刻まれた、異界の機械文明・ロボット・SF作品に関するあらゆる知識群。 |
| アルカディア | 高度な魔法文明とマナ依存社会を築いた古代の魔導国家。 |
| ヴァルグラン | ベルの実家に保存されていた、旧式の古式魔導騎鎧。ルーメに魔改造される。 |
| マナ・サーキュレーション理論 | 偏在すると考えられていたマナを、星の深層から地表へ循環する流れとして説明するアーカイアスの理論。 |
| ノクティルカ革命 | 周辺国から始まった、アルカディア魔導評議国の隠蔽と搾取を終わらせようとする革命運動。 |
STORY EPISODE I
啓示持ちとして生まれたルーメ
古代魔法文明アルカディアに生まれたルーメは、乳児期に「啓示」を受け、異界の機械文明と物語に関する知識群《マキナ・レリクス》を刻まれる。そこに含まれていたのは、機械工学や人工知能、宇宙開発、巨大兵器の知識だけではない。主人公機、量産機、母艦、仲間との通信、最終決戦、帰還を待つ者たち――ロボットとSFを成立させる物語そのものまで、ルーメの中には記憶として存在していた。
啓示持ちは、アルカディアでは保護対象であると同時に国家資源でもある。ルーメは衣食住や教育を与えられ、将来を期待されたが、普通の娘として愛されるより先に、家名と国家へ利益をもたらす特別な存在として扱われた。一方、彼女が生まれたアルカディアでは、魔法が文明のほぼすべてを担っていた。上位の魔法使いは身体を強化し、空を飛び、防壁を張り、遠距離から大規模な攻撃を行える。搭乗式の魔導鎧は存在していたが、生身の魔法使いより重く、遅く、扱いにくい旧式兵器にすぎなかった。
自分が愛するロボット物語を必要としない世界に生まれたと知ったルーメは、深く絶望する。ならば、自分で作るしかない。思考加速の果てに時空魔法へ目覚めたルーメは、外界より長い時間を確保できる時間断層内へ研究環境を築く。幼い身体では扱えない作業を代行させるため、最初の眷属「エリュシア」を生み、設備、作業体、情報網を少しずつ拡張していった。
やがてルーメは、表の自分とは別に、研究者・発明家として外部へ技術を流すための名義「ミネルヴァ・ギアハート」を用い始める。しかし、どれほど優れたものを作っても、その根にはマキナ・レリクスで見た異界の完成作品がある。ルーメは、自分の成果が模倣と継ぎ接ぎにすぎないというコンプレックスを抱え続けることになる。
首都魔法学園
12歳になったルーメは、啓示持ちの国家管理制度に従い、首都魔法学園へ送られる。そこで出会ったのが、孤児院出身の平民でありながら努力だけで入学したステラと、地方貴族家の5女で、創造魔法の才能を持つベルだった。
ステラは、困っている人を見れば放っておけない。目の前の誰かを守るためなら、自分が傷つくことも恐れず前へ出る少女である。ベルは気位が高く、感情が重く、ステラを何よりも優先する。創造魔法によって、頭の中の構造を現実の部品や装置へ変換できる危険な天才でもあった。ルーメは2人へ、異界のロボットや宇宙船、人工知能の物語を語る。ステラは、その物語を純粋に楽しんで聞いた。ベルは、ルーメの荒唐無稽な発想を「作れるかどうか」という技術の問題として受け取った。ルーメにとって、自分の中にしかなかった物語を誰かと共有できたのは初めてだった。
3人は学園生活の裏で秘密研究を始める。ベルの実家に保管されていた旧式の古式魔導騎鎧《ヴァルグラン》を持ち出し、魔法が使いづらい極限環境でも稼働できる新機軸の魔導鎧へ改修していく。ステラが搭乗し、ベルが機体と部品を作り、ルーメが異界知識と制御理論を持ち込む。
この時点の研究は世界を救うための計画ではない。三人が、自分たちの「好き」と「できること」を持ち寄って始めた、学園の秘密活動だった。
その一方で、ルーメは表向きの学園生活と並行して、時間断層内で研究を続けていた。そこで最初の眷属である「エリュシア」を、ARCANAとして完成させる。さらに、発明家「ミネルヴァ・ギアハート」の名義でさまざまな技術を世に送り出し、首都で活動するための資金と人脈を築いていった。やがてルーメは、新たなARCANAとして「ノイン」「カエラ」「オルカ」を生み出す。彼女たちを各地で活動させることで、表社会にその全貌を知られることなく、研究設備、情報網、協力者を着実に増やしていった。この時期に形成されたルーメとARCANAたちの共同体は、後に第零外郭艦隊、第零信託機構、エイドロン・ユニットなどを加え、独立文明圏「エルセナード」へと発展していく。
マナイーター襲撃
王都へ魔法文明の天敵である災害級魔物「マナイーター」が襲来する。マナイーターはマナを食べる怪物ではなく、周囲のマナ励起を阻害し、通常の魔法や魔導具を成立させない存在である。魔法へ依存する王都の防衛戦力は機能を失い、都市は大混乱へ陥った。
通常魔法が阻害される戦場で、ルーメ達は未完成の極限環境用魔導騎鎧《ヴァルグラン改》での反撃を決意する。ベルとルーメは、マナイーターの断絶殻を突破するための武器《導励穿杭・零式》を突貫で構築する。それは装甲を力任せに貫くための杭ではなく、マナイーターの体内に存在する独自のマナ循環へ通じる経路を開き、外部から魔法を流し込むための通路を作る兵装だった。
ステラはヴァルグラン改でマナイーターへ肉薄し、導励穿杭・零式を打ち込む。そこから自らが磨き上げたオリジナル魔法《アステロイド・ブレイカー》を内部循環へ流し込み、老成マナイーターを内側から崩壊させた。この勝利によって、魔法が成立しない戦場で、人が機体へ乗って戦う物語が初めて現実になる。
ルーメにとっては、マキナ・レリクスで見た物語の模倣ではない、この世界に生まれたステラ自身の英雄譚だった。
だがこの襲撃は偶然ではなく、魔導国の侵略と搾取により疲弊した周辺国の抵抗勢力が、王都へマナイーターを誘引したテロ事件だった。ミネルヴァ・ギアハートとして実行犯と接触したルーメは、逃亡を幇助する代わりに抵抗勢力とのパイプを作り、魔導国の外側の現実を知る。魔導国は襲撃の政治的背景や3人の研究を公表せず、ステラだけを「アステロイド・ブレイカー」の英雄として祭り上げる。ステラは人々を救えたことを喜びながらも、自分だけが物語の中心として利用されていくことへ戸惑いと疑念を抱いていく。
第一魔塔研究室
マナイーター襲撃事件の後、ルーメ、ステラ、ベルは、魔導国から英雄であると同時に、管理すべき危険な研究成果として注目される。3人は本来6年かかる魔法学園課程を3年で修了した扱いとなり、保護と研究継続を引き受けた第一魔塔の主「アーカイアス」の研究室へ異例の配属を受ける。アーカイアスは3人を研究対象ではなく、研究室の一員として迎えた。
君たちは今日から研究室の一員だ。 研究対象ではない。 研究者として扱う。
中でもルーメは、啓示によって膨大な異界知識を持ちながら、それを無条件に正しい答えとして扱っていた。アーカイアスは彼女へ告げる。
君は多くを知っている。 だが、知っていることと、理解していることは違う。
ルーメは、マキナ・レリクスの知識をそのまま再現するのではなく、アルカディアの物理、魔法、材料、社会制度の中で成立する形へ翻訳することを学んでいく。
アーカイアスは若くして《マナ・サーキュレーション理論》を提唱し、マナの工業利用と魔導国発展の礎を築いた最大の功労者として知られている。その理論を可視化した循環モデルは、彼の名を冠して《アーカイアス・モデル》と呼ばれる。一方、ルーメは眷属達を使い、周辺国のマナ枯渇、地盤沈降、アブストラクターの稼働記録、マナ・ヴェインの乱れを観測していた。アーカイアス・モデルとこれらの観測データを照合することで、ルーメはマナの過剰抽出が循環を不可逆的に破壊する可能性へ近づいていく。
第一魔塔で過ごした時間は、研究室での青春であると同時に、アーカイアスがルーメを国家資源ではなく、研究者とひとりの少女として見た時間でもあった。その関係は後に、ミネルヴァ・ギアハートの正体とメガリス・コーン理論を巡る告白を経て、最初で最後の家族の夜へ至る。
アマツ群島国消失
アマツ群島国は、アルカディア大陸から離れた外洋に位置する、土地資源や鉱物資源に乏しい島国だった。若き日のアーカイアスが《マナ・サーキュレーション理論》を提唱した際、保守的な魔導国が相手にしなかったその研究を最初に支援し、フィールドワークへの資金援助、国内での発掘試験、観測塔の建設、プライムポイントの調査に協力した。こうしてアマツ群島国は《アーカイアス・モデル》を最初に実用化した国家となり、その成功を追う形で魔導国もアーカイアスを召還し、第一魔塔の主へ任命してマナの工業利用を進めていった。
ルーメが第一魔塔へ入ってから一年目の年末、世界各地で青白いオーロラが観測され、アマツ群島国が一夜で地図から姿を消した。アーカイアスにとって同国は単なる理論の実験地ではなく、若き日の自分を支えた恩人や研究仲間のいた土地だった。
彼が事件を気にかけていることを知ったルーメは、眷属たちへ秘密調査を命じる。調査の結果、アマツ群島国は海へ沈んだのではなく、長年にわたる最古のアブストラクターの稼働によって、島を支えていた深層メガリスの支持構造が崩壊し、マナ・プルームの異常噴出とともに世界の深層へ抜け落ちたことが判明する。これは後に《メガリス・コーン現象》と呼ばれる、逆円錐状の沈降崩壊の最初の大規模観測例だった。
アマツ群島国は大陸側の深層メガリス構造と完全には連続していなかったため、沈降は島国周辺で止まった。しかし、複数のアブストラクターが異なるプライムポイントと深層メガリスへ干渉するアルカディア大陸で同じ現象が起これば、ひとつの沈降が周辺の支持構造へ負荷を移し、連鎖崩壊へ発展する危険がある。最悪の場合、その影響は大陸を越え、地表文明全体の基盤を破壊する。
メガリス・コーン理論
ルーメは眷属たちを用い、大陸じゅうでマナ異常に関する記録を集める。それらの観測結果は、《アーカイアス・モデル》に決定的な不足があったことを示した。同モデルは、回復速度を超える過剰抽出が、どの時点で循環を自然回復不能へ落とすかまでは示していなかった。
深層メガリスへの過剰負荷、マナ・ヴェインの乱れ、アブストラクターによる抽出、スラグの蓄積、都市基盤と魔塔の重量が重なることで、深層構造を巻き込む逆円錐状の沈降崩壊が形成される。この破局を説明するものが《メガリス・コーン理論》であり、形成が始まる危険限界は《不可逆的沈降係数》として定義される。
ルーメは、理論を公表すればアーカイアスが魔導国から狙われると考え、発表を先送りしようとする。だが周辺国ではマナ枯渇、地盤沈降、農地崩壊、属国の窮乏が進み続けていた。やがてアーカイアスは、ルーメと発明家ミネルヴァ・ギアハートが同一人物であることへ辿り着く。彼はルーメへ養子縁組を申し出たうえで、「家族に隠し事は無しだよ」と告げ、彼女が隠してきた国外活動とメガリス・コーン理論を受け止める。そして、魔導国の根幹を否定することになると理解しながらも、理論を公表する道を選ぶ。
アーカイアス暗殺
公表準備を進めるアーカイアスとルーメに対し、魔導国上層部は二人の同時排除を計画する。差し向けられたのは、孤児から暗殺者ギルドへ売られ、隷属魔法によって命令へ逆らえない暗殺者となった少女「リリィ」だった。
リリィへ与えられた命令は、ルーメを殺してその姿を借り、アーカイアスへ接近して殺害した後、自らも命を絶つというものだった。彼女は眷属たちの護衛をかいくぐりルーメを殺害し、その姿でアーカイアスの前へ現れる。一目で目の前の少女がルーメではないと見抜いたアーカイアスは、それでも彼女を単なる道具や仇として扱わず、隷属されてここまで来たひとりの子どもとして見たまま、命令に逆らえないリリィの手によって殺される。
任務を終えたリリィには自死命令が下る。そこへ、殺したはずのルーメ本人が現れ、「ここで死ぬか、自分の側で生涯償い続けるか」という選択を与える。リリィは後者を選び、ルーメは彼女の魂を回収してARCANA規格の身体へ移し、新たに《ヴェスパー》と名づける。
アーカイアス暗殺後、ルーメは第一魔塔へ火を放ち、自らとアーカイアスの死を偽装して表社会から姿を消す。そして、新たなARCANAである「セレス」「リュカ」「ヴェスパー」とともに再び姿を現した時、彼女は「ノクティルカ」を名乗り、世界から魔法を奪い、魔導国を終わらせると宣言する。
STORY EPISODE II
ノクティルカ革命
ノクティルカは、ルーメが革命を進めるために用意した、黒いヴェールと喪服をまとう少女型の代理構成体である。当初のルーメにとっては革命をまとめるための記号にすぎなかったが、抵抗勢力の拠点へ食料、医療具、燃料、通信装置、避難経路をもたらし、マナに依存しない《レゾナドライブ》、位相中和装置《ニュートラライザー》、非マナ駆動の強化外骨格《リベルタス・フレーム》を与えたことで、周辺国や属国の人々から救済の魔女、黒衣の聖女、夜光の魔女として見られるようになる。
革命の骨子となったのが、3つの文書による告発である。アーカイアス本人が残した原資料《アーカイアス論文》は、メガリス・コーン理論、アブストラクターの過剰抽出、スラグ蓄積、不可逆的沈降係数の危険を示す。《ミネルヴァ注釈》は、研究者や技術者が検証できるよう、数式、観測手順、危険区域の推定、アブストラクター停止手順、マナ・グリッド遮断案を体系立てて記述する。《ノクティルカ声明》は、属国、周辺諸国、地方都市、反魔塔勢力、市民へ向け、魔導国中枢が大陸崩壊の危険を隠蔽していることを政治的に告発する。これにより、学術界、技術者、民衆へそれぞれ異なる言葉で真実が届き、革命運動は大陸規模へ拡大していく。
革命軍は《ニュートラライザー》によって局所的なマナ励起を中和し、魔法、魔導具、魔塔支援、都市防衛術式へ依存する魔導国軍を「魔法が成立しにくい戦場」へ引きずり込む。一方、革命軍は《レゾナドライブ》と《リベルタス・フレーム》によって動き続ける。魔導国は、危機を認めれば繁栄の代償、属国への搾取、アーカイアス暗殺を認めることになるため、自らアブストラクターを止めることができなかった。
ステラとベルの選択
ノクティルカ革命には、魔導国上層部とは異なる、ステラ側の正義がある。ステラは魔導国を盲信しておらず、アーカイアス暗殺、危機の隠蔽、属国への搾取を疑っている。それでも王都には、市民、学園の後輩、友人、孤児院の人々、ベルをはじめとする、加害者ではない人々が暮らしている。彼女は魔導国の権威ではなく、目の前の大切な人々を守るために革命軍の前へ立つ。
ベルはノクティルカの正体がルーメであることへ気づき、大陸規模ではその主張が正しいことも理解している。しかし、ベルにとって最優先されるのはステラである。彼女は当初、ステラを失わないために装備と行動を制限しようとするが、衝突を経て、ステラを閉じ込めるのではなく、前へ進んだ彼女を生還させる装備を作る技術者へ変わっていく。
捨て身の電撃逆進行作戦
革命軍を通常戦力では止められなくなった魔導国上層部は、マナイーターを撃破した英雄ステラと《ヴァルグラン改二》へ目を向ける。《ヴァルグラン改二》は、大破した《ヴァルグラン改》をマナイーター戦のデータに基づいて修復・改善した機体で、マナ励起阻害領域内でも行動できる可能性を持っていた。
ステラへ命じられたのは、正面戦線の流れに逆らって革命軍中枢へ単機突入し、首魁ノクティルカを討つ《捨て身の電撃逆進行作戦》だった。事実上、英雄を最後の駒として使い潰す作戦である。ステラは利用されていると理解しながらも、王都と市民を守り、ノクティルカのもとへ辿り着いてルーメと直接話すため、自分の意思で作戦を受ける。ベルは反対しながらも、ベル製マナカートリッジ、緊急封止材、脱出機構、自動修復材、短時間だけ阻害環境を突破する補助機構を《ヴァルグラン改二》へ組み込み、ステラの帰還を支える。
《ヴァルグラン改二》対《アイオーン》
革命軍中枢へ突入したステラの前に、ヴェスパーが操る魔導鎧《アイオーン》が立ちはだかる。ベルの支援を得た《ヴァルグラン改二》とステラは強力だったが、外見は魔導鎧の外装で偽装されているが中身はルーメが完成させた世界初のロボットである始源機《アイオーン》と、魔法を用いない純粋な戦闘能力で当時最強の暗殺者だったヴェスパーの敵ではなかった。ヴェスパーは《ヴァルグラン改二》の4肢を切断しながら、炉心とコクピット、ステラとベルの命は奪わず、戦闘継続能力だけを失わせる。
メガリス・アーマメント《カンパネラ》
《ヴァルグラン改二》の敗北を確認した魔導国上層部は、「星は墜ちた、鐘を鳴らせ」の暗号とともに、悪魔の発明と呼ばれる最終兵器――メガリス・アーマメント《カンパネラ》を起動する。
《カンパネラ》は、都市や魔塔へマナを供給するアブストラクターと深層メガリスの接続を直列励起し、1基のアブストラクターを焼き潰すことで、その莫大な出力を収束砲撃へ転用する禁忌兵器である。発射地点では、極端な地盤沈下、深層構造の連鎖崩落、局所的な深淵化が引き起こされ、大陸全体の不可逆的沈降係数をさらに悪化させる。それでも魔導国上層部は、ノクティルカと、射線上にいる自国の英雄をまとめて排除するため、《カンパネラ》の発射を選択する。
迫る砲光を前に、ノクティルカはヴェスパーへ《アイオーン》の封印解除を命じる。黒い魔導鎧を思わせる偽装外装が解体され、その内側から、白く輝く本来の内部フレームが姿を現す。ノクティルカは《アイオーン》へ同乗し、共鳴翼《ハルモニア》を展開する。彼女の歌をヴェスパーがリアルタイムで調律し、《ニュートラライザー》の効果を空と砲光へ拡張する。《カンパネラ》の火は、爆発することも迎撃されることもなく、その成立構造そのものを失い、空中でほどけるように消滅していく。
その後、ベルによって《ヴァルグラン改二》から救出されたステラは、ノクティルカの正体がルーメであると確信したうえで、「また一人で行くのか」と問いかける。
ルーメはそれを認め、静かに答える。
「だから、眠らせてくる」
D2計画
《カンパネラ》の発射によって、西都の深層メガリスは沈降暴走を起こし、大陸規模のメガリス・コーン現象の連鎖が始まる。砲撃を中和しただけでは、すでに始まった崩壊を止めることはできなかった。
D2計画――Deep Dormancy Plan/深層休眠計画は、メガリス・コーン現象の連鎖を止めるためにルーメが発案した、惑星規模の制御計画である。《マナ・フリーズ・プロトコル》によって地表のマナを術者や装置が励起できない状態にし、魔法行使を含むマナ活動を星規模で長期間停止させることで、大陸から世界規模へ広がる連鎖崩壊を止めることを目的としている。
計画は、始源機《アイオーン》、位相中和装置《ニュートラライザー》、広域位相中和装置群《ソムニア》、ノクティルカの歌、そしてリュカの共鳴技術を統合した制御システムとして実行される。《ソムニア》は、各地の深層メガリス接続点へ展開される休眠楔である。各地点でマナ励起を停止させ、その状態を維持する。ノクティルカの歌は、計画全体の起動・同期信号を兼ねる。リュカは各装置へ届く歌唱信号と反応のずれを補正する。《アイオーン》は、マナを使用しない新発明のエネルギー機関《ルクスドライブ》によって駆動するため、地表のマナを励起できなくなり、他の魔導具や魔導鎧が次々に停止する状況でも、最後まで計画全体の制御を維持できる。
上空へ展開された《ソムニア》の全域同調が臨界へ達すると、《ソムニア》は眩い光を放ちながら流星のように地上へ降り注ぎ、各地の深層メガリスへ転送されていく。それとともに、地表からマナの光が失われる。魔塔の灯火が消え、魔力灯が沈黙し、都市を支えていた術式や、戦場に展開されていた魔法陣が次々に停止する。《ソムニア》は深層メガリス内で励起不能状態の維持へ移行し、地表では術者や装置がマナを励起できなくなる。
最後に残されたのは、魔法文明の輝きではなかった。革命軍のレゾナドライブが灯す小さな機械の火と、大気中のマナの揺らぎが失われたことで、本来の輪郭を取り戻した満天の星空だった。
深層休眠後の世界
リュカが手動で行った世界規模の共鳴調律は、《ソムニア》側の制御装置によって学習・補正され、やがて《位相中和アルゴリズム》として完成する。これにより、《ソムニア》は深層メガリス内で無人のまま休眠状態を維持できるようになった。再び深層メガリスにマナが満ちるまでの約4000年間、地上はマナを利用できない世界へと変わることになる。
生活、軍事、交通、通信、医療、都市運営の多くをマナへ依存していた魔導国は、急速に機能不全へ陥る。魔塔の権威は失墜し、魔導軍は力を失い、都市インフラも次々に停止する。革命軍や周辺国も無傷ではなかった。しかしノクティルカ側は、レゾナドライブ、非マナ技術、避難導線、補給計画を事前に準備していたため、一部の地域では社会機能を維持することができた。
《カンパネラ》を発射した西都では、深層メガリスの沈降暴走と深淵漏出が発生する。物質、魔導構造、地脈、生体組織が黒紫色の硝子質結晶へ変質する《ネザライゼーション》と、空間位相そのものが深淵側へ傾いた《ネザー・ポケット》が残され、西都一帯は人の立ち入りが禁じられた《西都沈降領域》となった。長い年月の中で、《西都沈降領域》に残された位相傷は、地殻変動や地脈の再編によって世界各地へ散っていく。それらは後世において、異界門が発生しやすい地点となる。
ルーメは深層休眠の前後に、マナなしでは生存できない霊的種族や魔物を、次元門の先に用意したマナ環境へ可能な限り退避させていた。また、魔導国の腐敗へ深く加担していない研究者や、知識の保存に必要な魔法使いの一部も回収する。魔法文明を終わらせても、魔法という知そのものまで失わせるつもりはなかった。
深層休眠後、ステラは一時的にベルの実家へ身を寄せていた。その屋敷の前へ、ルーメはレゾナドライブ駆動へ改修された新たなヴァルグラン――《ヴァルグラン・ルミナリス》を、何も告げることなく残していく。ステラとベルはその機体で王都へ戻り、魔法を失った混乱の中で、救助、避難民の保護、瓦礫の撤去、治安維持にあたる。《ヴァルグラン・ルミナリス》には、《ソムニア》の系譜に連なる機体制御AI《ルミナリス》が搭載されていた。ベルは《ルミナリス》の助言を得ながら、マナへ依存しないエネルギー技術を解析し、生活インフラへの応用を広げていく。
こうして《ヴァルグラン》は、魔法が死んだ戦場でマナイーターを倒した機体から、魔法が失われた世界で人々を救う機体へ、その役割を変えることとなった。
後世では史実が混線し、魔導国正史におけるノクティルカは、魔法文明を終わらせた《裏切りの魔女》として語り継がれる。一方、辺境では、避難路と生活の火を与え、歌によって世界を眠らせた《夜光の魔女》《救済の聖女》《歌う黒衣の少女》として伝えられる。さらに、深層休眠後も人々を救い続けたステラの伝承が重なったことで、裏切りの魔女と救済の魔女が同一人物であったのか、それとも別の人物であったのかさえ、後世では曖昧になっていく。
D2計画後もマナそのものは残り、地表では術者や装置がマナを励起できない状態が長期間維持された。2088年の現代。《ソムニア》の機能が弱まり、停止し、あるいは破損することで、魔法、魔物、霊的存在、そして古代魔法文明の残響は、再び地表へ現れ始める。
